420年以上の伝統を誇る、薩摩川内の祭り「川内大綱引」。市民の心に深く根付き、毎年熱く開催されているこの大綱引を映画にしたい、という地元有志の思いを受けて始まった映画づくり。制作陣の来訪を最初にお伝えして(「川内大綱引が映画になる!」)から2年。制作発表、キャスト発表そして撮影開始と折に触れご紹介してきました。今年2月には「川内大綱引420年祭記念講演会」もありました。そして本日、佐々部清監督、スタッフ、俳優陣が「我が子のように愛情を注いで作った」映画、「大綱引の恋」完成披露試写会を迎えました。
今年3月に急逝された佐々部清監督。この日を待ち望んでいたことでしょう。
映画「六月燈の三姉妹」の企画や、薩摩言葉の指導でも知られる俳優の西田聖志郎さん。鹿児島のある懇親会で「綱引を映画にできませんか?と言われたのがすべての始まりだった」と振り返ります。2018年の薩摩川内市役所来訪時に「2年半前から12回以上、ロケハンに来ている。2年前には地元に準備委員会が立ち上がり、大変心強い。薩摩川内市の強力なサポートを頂いて、ぜひこのチャレンジを成功させたい」と力強く語っていたのが印象的でした。指揮を取ったのは「半落ち」「チルソクの夏」で知られる佐々部清監督。西田さんとは「六月燈の三姉妹」以来のタッグとなります。「阿吽の呼吸で分かりあえていた」という監督と西田さん。本市を舞台にした「大綱引の恋」が佐々部監督の遺作となりました。
川内文化ホールロビーに展示された市内の小中学生の皆さんが描いた応援ポスターです。佐々部監督と共に、完成披露を見守りました。
川内大綱引を継承する会 山元浩義会長あいさつ
FMさつませんだいの放送(第1・3木曜11時~)でもおなじみ、韓国出身のイ・ハーリンさん。お母さまが劇中に登場されています。何の役かは観てのお楽しみ。「お母さんも本当に観に来たかったと言っています。今年はもう会えないと思っていたから、映画で顔を見て涙が出た」とハーリン。映画さながらの切なさがここにも。
川内大綱引を支えている現役の皆さんも試写に駆け付けました。田辺屋孝宏さん(写真中央)には「20周年!薩摩川内子供大綱引」にて話をお伺いしています。
映画を記念した焼酎も完成!
映画「大綱引の恋」制作事務局 西田聖志郎さん。映画では綱に思いを賭ける主人公、有馬武志の父親を演じました。
【西田聖志郎さん上映前あいさつ】
川内大綱引をテーマに映画を撮るとなった時、出資者の皆さんが「薩摩川内の映画にすっが!」と、出資して頂きました。それによってこの映画の制作をスタートすることができました。続いて、各企業団体、個人の皆さんが協賛をしてくださいました。そして現場でのロケにあたっては、本当に多くの方々、ボランティアの皆さんによる交通整理、炊き出し、さらには大綱引のシーンを再現するために400人以上にわたるエキストラの皆さんがボランティアで出演されました。この映画は我々撮影隊が東京から来て、川内の地を借りて撮影したというだけではなく、川内の皆さん一人ひとりがこの映画づくりに参加して頂いたことによって完成した映画です。皆さんの汗が、そして魂が、全シーンにほとばしっています。どうか今日、鑑賞してそれを確認頂けたらと思います。改めまして、皆さんのご支援に心からの感謝を申し上げます。今日はありがとうございます。
【西田聖志郎さん上映後あいさつ】
佐々部監督が愛情を注いで生まれたこの映画、その我が子を監督は手に取り抱くことはなりませんでした。この映画をひとりでも多くの方に見て頂くことが、何よりの弔いだと思って、鹿児島先行公開、そして全国公開に向けて、粛々と準備を進めてまいりました。今日のこの日を迎えるまで、すべてが順風満帆だったわけではありません。途中で挫折しかけたこともありました。しかしそれを支えてくださったのは、今日お集まりの皆さまです。たぶん、監督もしめっぽい雰囲気はいやな人ですから、どこかで皆さまが楽しくご覧になっている姿を見て、飲んでいることと思います。忙しい方ですので、向こうで次の企画を練っているんじゃないでしょうか。向こうに盟友がいっぱいいます、いろんな腕のいいスタッフがいますから、さらにいい映画を撮っていると思います。皆さま方の支えで今日という日を迎えられましたことを、改めて感謝申し上げ、今日の試写会をお開きとさせて頂きたいと思います。本当にありがとうございました。
映画「大綱引の恋」は今秋、鹿児島で先行公開されます。薩摩川内では特別上映会を予定しています。2020年10月31日(土)川内文化ホール、2021年1月17日(日)SSプラザせんだいにて開催予定です。10月の上映会では出演俳優陣による舞台挨拶も予定されています!薩摩川内市民の皆さんは特別前売り券(1000円)を購入できます。佐々部監督の映画愛、市民への感謝が詰まった「大綱引の恋」。市民なら必見です!
【西田聖志郎さん共同インタビュー】
-故・佐々部監督への思い
監督自身、やるべき仕事は全部終えてからの急逝でしたから、仕事という部分においては悔いはないと思います。ただ、自分で産み落とした子どもを抱っこすることができない、という状態です。そういう意味では一緒に観たかったなと思いますし、なおかつ、東京で業界関係者内の試写はやっているんですが、やはり薩摩川内でやるこの試写会を、川内の方々の反応を肌で感じながら観るということを、監督と一緒にやりたかったなと思いますね。
-3月末の急逝を受けて
仕事に手がつかないというか、脳がストップしましたよね。なんというんでしょう、言葉には言い表せない喪失感です。監督デビュー以来ずっと一緒でした。監督も遅咲きで、そのデビュー作品に私もオーディションで出て。東映という大きな映画作品で役が付く出演は初めてでした。監督と俳優という違いはあるが二人とも似たような感覚を持っていて、シンパシーを感じるところがありました。「六月燈の三姉妹」をお願いした時も、多くを語らずとも僕の企画意図をわかってくれる監督でした。
-日韓の掛け橋として
まずは薩摩川内市と昌寧郡(チャンニョングン)が綱引によって友好都市盟約を結んでいる(※1)、同じ規模の綱引を互いに持つということで、韓国を入れました。昌寧郡から研修医として鹿児島大学に来て、研修先として下甑島に赴任する女医さん、そして綱引に青春を賭ける青年。この二人が何らかの接点で出会い、惹かれ合う、しかし思うようには事が運ばない。切ない部分を描きたいという思いが私にあり、それを伝えた時に監督は何も異論なく、僕が思っていた以上に描き出してくれました。「六月燈の三姉妹」もそういう作品でしたが、最後はほんわかとした感じ、希望を持たせる感じで終わる。それは監督と私と、阿吽の呼吸で通じ合っていた部分でした。
(※1)平成11年の川内大綱引400年祭に韓国昌寧郡の親善訪問団が参加したのをきっかけに、民間レベルでの交流が続き、さらに幅広い交流を推進するために2012年、友好都市盟約が締結された。参照:鹿児島県
-制作発表の際、監督は「綱引の映画にはしない、家族の物語を描く」と話していた。観てみると綱も家族も両方描かれていた
その二つがバランスよく入っていましたね。監督自身が実際の大綱引を見て、分量を増やそうと思ったんだと思います。結局15分くらい使っていますね、ラスト。それがあって僕は良かったと思っています。
-人物描写がリアルで、鹿児島の人らしさを感じた
僕の作品は、家族がいろんなかたちでぶつかり合う。本音を言い合ってぶつかって、それで一歩理解し合えるというところを描きたいという思いが常にある。僕が多くを語らなくても監督は常にその思いを汲んでくれました。
-西田さんと石野真子さん、絶妙の夫婦役
あれを僕らはベッドシーンといっている(笑)。真子ちゃんの顔を見ていると、自然と演技というか、気持ちができてしまう。阿吽の呼吸の芝居の駆け引きというんでしょうね。
-綱引のシーンについて
僕らは「佐々部マジック」だといっている。佐々部さんじゃないとできなかったんじゃないかな。3時間という限られた時間、400人以上のエキストラを使って、本番さながらのテンションの高さ、そこまで全員の気持ちを盛り上げて、撮り切る。そして本番と再現部分の境い目が分からないでしょう?本当にあれこそが、佐々部マジックなんです。
-市民の皆さん、これからご覧になる方へ
我々撮影隊が東京から来て撮るというだけではなく、ひとりでも多く、薩摩川内市民の皆さんに何らかのかたちで関わって頂きたいという思いが最初からありました。ボランティア、炊き出し部隊、交通整理、協賛と、多くの方々に参加して頂くことで、我々に加えて薩摩川内市民も一緒になってつくる映画、としたかった。結果的に見事にそうなりました。薩摩川内の皆さんの人情が随所に現れている映画です。ぜひともそれを楽しみに見て頂きたいと思います。
佐々部監督と共に。。