IoTデザインガール in 鹿児島~地域課題にITで取り組む~

インターネット技術と女性の視点を組み合わせ、業種の枠を超えたチームを作って、地域の課題を再定義し、解決しようという取り組みが「IoTデザインガール」です。全国各地で行われているこのプロジェクト、鹿児島では今回で3回目の開催となりました。薩摩川内市役所からも2名の職員が参加。2022年1月14日の報告会の様子をレポートします。

IoTデザインガール in 鹿児島 リアルとオンラインの参加者が一堂に会した

改めて本プロジェクトの趣旨を紹介すると「企業・自治体・地域をつなぎ」、「新たな価値を創出。新型コロナウイルスと共存する社会づくり」、及び「すべての女性が活躍する社会づくり」をテーマに、地域課題に向き合い、デザイン思考やIoT/ICT(Internet of Things/Information and Communication Technology)を活用し、参加者の新しい発想で、『鹿児島の今と未来をつくる』ことを目指すものです。参加者は「健康・福祉」「観光」「食・一次産業」「教育・文化」「産業振興・働き方」からテーマを選び、プロジェクトチームを組んで、地域課題を具体的に調査し、解決を図る仕組みやツールをITを活用する形で提案します。報告会では各チームがプレゼンテーションを行い、評価に沿って各賞が授与されます。チーム発足、顔合わせから打合せ、経過報告とアドバイス、仕上げに至るまで、およそ半年という長丁場のプロジェクトです。参加者は通常の勤務をしながら、時間を捻出し、発表の舞台に向けて準備してきました。

薩摩川内市役所から参加のひとり、企画政策部の久保田詩織さん。久保田さんのチーム「いざ湯かん!せごがーる」は、地域課題として「少子高齢化」を挙げ、およそ200人へのアンケート調査から見えてきた問題点を整理。主として、高校卒業を契機に若年層が地域(鹿児島)を離れ就学、就職したのち、そのまま都市部に定着し、Uターンが少ない現状が何に起因しているのかを探りました。キーワードとして浮かび上がったのが「雇用」です。都市部と比較して、地域では企業数も職種も少なく、また流動性も低いことが、地域に若年層が少ない要因と仮定しました。また将来的なUターン志望者の動機を探ると「雇用」と「子育て」が上位にきました。地域から離れた人たちの「帰ってきたい」をどうサポートするか?若者が帰ってきたい時に帰ってこれる環境づくり。これをITで実現しようと乗り出します。

企業誘致による雇用創出はITを駆使しても、そう簡単にはいきません。そこで着目したのが「起業」です。久保田さんは、専門性を活かし、ライフステージに応じた働き方を起業で実現している女性たちに会い、話を聞いて回りました。ITによるデータ集約・分析と、対面での聴き取りだからこそ得られる生の情報。この両方を久保田さんのチームは問題解決に活かそうとしました。そして迎えた発表の日。。

WELL-BEING(いいつながり)で帰ってきたくなる鹿児島へ!!

「いざ湯かん!せごがーる」チームは「チャレンジスペースMAP」という、仲間づくりを支援するアプリを提案しました。イメージとしては、地図アプリと、専門性を持つ起業家予備軍のSNSとを組み合わせたようなもの、といえばよいでしょうか。薩摩川内市では特技や専門性を持つ「きらりびと」を登録し、市民どうしの「習いたい/教えます」をつないでいますが、どこにそういう人がいるのか、どんな場所で起業しているのかなどを可視化するのが「チャレンジスペースMAP」です。仲間を探す、つながる、助け合う、チャレンジする、という起業に至るまでの人材をマッチングさせる機能も備えています。

その結果、起業したい人、職種、雇用が増加し、地域の経済が活性化します。ワークライフバランスが重視される現代ですから、そのようなロールモデル(実例)が増えれば、チームの目指す「若者が帰ってきたい時に帰ってこれる鹿児島」となり、少子高齢化が緩和される地域社会への可能性が出てきます。短い発表時間のなかで、思い切って「起業」にフォーカスした点に注目が集まったようでした。

「いざ湯かん!せごがーる」チームの皆さん。放送局、大学生、自治体、金融と様々なバックグランドを持つメンバーです。

8チームすべての発表が終わり、いよいよ表彰式。薩摩川内市長賞は「鹿児島ステキ発信~ドライブレコーダーを用いたレンタカー観光サービス~」を提案した、チーム「集姫」が受賞。レンタカーにドライブレコーダーを装着し、目的地や経路、滞在時間等のデータを収集、分析し、情報発信に役立てる。またドライブレコーダーが撮影した風景動画を、そのままPRに使えるのではとの発想が光りました。実現可能性が高く、観光客、観光地、レンタカーサービスにとって、まさに三方良しのように思えました。「実証実験を、ぜひ甑島で」というコメントと共に、甑島で人気の土産品が贈られました。

各賞の発表が進み、「いざ湯かん!せごがーる」は肝付町長賞を受賞。「起業をしたい、という人が若年層や地域にそんなにいるとは思っていなかった。潜在的な起業志望をぜひ掘り起こしてみたい」との評価でした。

もうひとり、薩摩川内市役所から参加した溝口さんのチーム「鹿児島♡エンジェルはーと」はスタンフォード賞を受賞。靴に関する悩みをデータ集約・分析で解決し、「出かけよう!」という行動変容にまで思いを馳せた点が高く評価されました。

そして授賞式の終盤、「いざ湯かん!せごがーる」チームは株式会社Creww賞も受賞。この日講演を行った株式会社Crewwの創業者・CEOの伊地知天氏からは「自分も起業した人間で、起業しようとする人をサポートする会社なので。起業を後押しするものを推します。副賞は、実現に向けて、私たちの持つソリューションを何でも使ってください」と力強い言葉が贈られました。久保田さんもチームの皆さんも「W受賞は予想していませんでした~素直に嬉しい」と笑顔でした。

薩摩川内市役所から参加のふたりは同期。半年間に渡るプロジェクト、おつかれさまでした。

振り返ると、どのチームもアイデアと地域への愛が詰まったプレゼンテーションでした。その多くが、ITによるデータ集約・可視化とマッチング機能を取り入れたもので、IT(アプリ)はこれらが得意分野なのだなと改めて感じました。パーソナル端末であるスマートフォンを国民の大半が所有し、今後さらに様々なものが可視化された「徹底的な透明性 (※Radical Transparency)」社会が到来すると予測されています。

その時、そこに浮かび上がる問題とは何か。解決できるとしたら、ITか、人か、その組み合わせとなるでしょう。前述の伊地知氏は講演で「ツールは変わっても人間は変わらない」と言い切りました。「ユーザーの欲しがるものを作る。それには、実体験から圧倒的な”負”を探すことです。不便、不安、不快……すると解決すべきテーマを見つけやすい」とアドバイス。「完成度よりスピードが大事。ユーザーのニーズなんて読み切れない、どうせ仮説とは違ってきます。生煮えでいいから、とにかくやることです!」冷静な分析と起業家らしい熱さの入り混じった、刺激的な話で締めくくりました。この経験はきっと地域の未来に活かされていく。参加者の達成感がもたらす、そんな明るさに包まれた報告会でした。

取材協力:IoTデザイン鹿児島事務局、株式会社ドコモ CS 鹿児島支店、ごはんとおやつsyuO

取材・文/泊 亜希子