「芋酎会」酒庵 朋×村尾酒造(1)

薩摩川内市神田町。国道3号から市役所に向かう通りに「酒庵 朋」は店を構える。ご主人の安藤朋光さんは、薩摩川内市の老舗割烹旅館「安藤」を実家に持つ。ごく自然に料理の道に進み、和食「なだ万」など有名店で修行したのち、2016年6月、自身の店をオープン。地元の旬の食材を活かした和食に、選び抜かれた焼酎、日本酒、国産ワインが愉しめるとあって、市内外より評判を集める人気店だ。

食中酒として発展してきた焼酎。銘酒「村尾」もそのあり方は変わらない。

「芋酎会」とは、安藤さんが店で定期的に開催する会のひとつ。芋焼酎を中心に、気鋭の蔵を知って欲しいと県内外の銘柄を紹介し、自慢の鍋コースとともに味わってもらう。時には蔵の造り手も参加し、今年の出来やおすすめの飲み方など、直接話を聞けるのもこの会のだいご味だ。割烹旅館「安藤」から引き継いだ会は100回を超える酒席を重ねてきた。

この日の蔵は薩摩川内市陽成町の「村尾酒造」。2004年にピークを迎えた焼酎ブームのさなか、「村尾」は3М=森伊蔵、魔王、村尾、として全国的に有名になり、入手困難な「幻の焼酎」と称された。ブームが落ち着いた今も品薄状態は続く。「あの、村尾」を飲めるというのは、地元民の特権といってよいかもしれない。

村尾酒造四代目、氏郷真吾さんは薩摩川内市隈之城出身。三代目の娘婿として、焼酎造りに携わるようになったのは31歳のとき。おりしも焼酎ブームの真っ盛りであった。それまで酒造りとは無縁の世界にいた氏郷さん。まず何から始めたのですか?とたずねると、「先代は、全部、ひととおりやってみろ、と。最初からやらせてくれた」のだという。自分なんかが触っていいのかな、とおそるおそる作業をする氏郷さんに、先代はマンツーマンで指導した。すでにブランドとなっていた「村尾」の看板。プレッシャーに押しつぶされそうになったこともあったが、義弟と一緒に造りはじめて十年余、2015年に代を引き継いだ。

「黄金千貫、黒麹、米。この3つで、造りを極めたい。いろんな流行や新しいものも出てくる。それはそれで良いけれど、自分は器用じゃないしセンスもない。ただ、ブレずに自分の理想に向けて、磨いていくのみ」と語る氏郷さん。多くの葛藤を乗り越えてたどり着いたであろう、職人ならではの覚悟のぞかせながら「日常酒でありたい。特別なものではなく、ね」と、笑顔で締めくくった。