旅する海の幸「下園薩男商店」

薩摩川内市湯田町。市街地より国道3号を阿久根に向かうと、田んぼのなかに現れる紺色の工場が目に留まります。下園薩男商店は創業昭和14年。阿久根市大川にて、いわしの丸干し、いりこなど魚介類の加工製造に始まり、2019年、創業80年を迎えました。近年では、イワシの丸干しをオイル漬にした瓶詰商品「旅する丸干し」が農林水産祭にて天皇杯を受賞、阿久根市にカフェやホステルを有するアンテナショップ「イワシビル」を開業するなど、時流を捉えたビジネス展開でも注目を集めています。そして2020年3月。同社単独による初の輸出が川内港から台湾に向けて行われました。

三代目社長、下園正博さん。れいめい高校の卒業生でもあります。

下園薩男商店・湯田工場にて加工された「ぼらの卵」を

台湾に向けて積み込む作業が行われていました。

箱詰めにしたものを丁寧に積み込みます。

冬場、12月から1月中旬にかけて獲れたぼらの卵を100g単位で大きさ別に仕分けし、箱詰めにしたもの。台湾でカラスミに加工され、世界へと輸出されます。

品質の証「下園薩男商店」

積み込み完了。作業の様子は写真に収め、取引相手に報告します。

下園社長が施錠を確認。冷凍コンテナとして川内港から台湾(基隆・高雄)航路に乗って無事、旅立っていきました。「今までも商社を通して輸出をしたことはありましたが、すべての手続きを自社で行い輸出するのは今回が初めて」と話す下園さん。2019年11月に鹿児島県が行った台湾での商談会に参加し、今回の取引相手とマッチングしたのだそう。手さぐりの作業だったと謙遜する下園さんですが、二代目社長の父・満さん、社員とともに記念すべき第一便を送り出し、ほっとした表情でした。ぼらの卵に続き、ぼらの身も輸出する予定になっています。

2019年に完成した湯田第二工場を見学させて頂きました。湯田に工場を構えたのは昭和46年。二代目の満さんが大学卒業後に帰鹿し家業に関わり始めたころ、初代の薩男さんと一緒に「いい土地はなかかね」とあちこち回るなかで見つけたのだそう。懐かしそうに話す満さんでした。

午後に入り大方の作業は終わっていましたが、作業場の整然としていること!

干し網の手入れ。

いわしの丸干しを袋詰めしています。

マイナス25度~の冷凍貯蔵庫。ここから全国へと出荷されます。

阿久根での創業から、薩摩川内市にて船間島と湯田に工場を開設してきた下園薩男商店。湯田工場では丸干し商品にて「JUSE-HACCP(HACCP手法に基づく安全管理システム)」を認証。FDA(米国食品医薬品局)HACCPも視野に入れるなど、国際基準をクリアし、製品の品質を高めることに注力しています。

自慢の逸品。「阿久根では、目を刺す”めざし”ではなく、顎から通してたんですよね」と満さんに教えて頂きました。昔ながらの伝統を受け継いでいます。

今後の目標を下園正博社長に伺うと、「輸出を増やしたいですね」ときっぱり。国内消費の落ち込みとともに、魚介の価格が低い現状。日本の物価安もあり、海外に出した方が値が付くケースもあるといいます。海外の和食ブームを受け、日本酒やかつお節にも追い風が吹く今、「日本の”だしの文化”を海外に伝えたいですね」と意欲的。「かつお節以外にも、いりこやさば、いわしのだし文化がある。工場に”煮る”行程を設ければ、さば、いわし、あじなどで節(ぶし)を作れるようになるので、それも目標です」と未来を見据える下園社長でした。

午後の休憩時間。ベトナム人の実習生受け入れは20年を超えて続いています。「工場のお父さん~」と明るく談笑する彼女たちでした。

北薩の海の幸を薩摩川内から世界へ。初代の名を冠し、伝統を次代に、そして世界に渡そうと挑む下園薩男商店です。

下園薩男商店:ウェブサイト
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旅する丸干し:ウェブサイト