薩摩川内市の中心を悠然と流れる川内川。川に掛かる太平橋と天大橋の間には九州新幹線と肥薩おれんじ鉄道の橋梁が並びます。川の上を走り抜ける新幹線、一方ゆっくりと走るおれんじ鉄道の車両や貨物列車が行き交う様子は薩摩川内らしいふるさとの景色のひとつ、といえるでしょう。
2020年現在、川内川水系河川整備計画に基づく大小路地区引堤事業が行われており、周辺の景色も少しずつ変化しています。なかでも、2020年元旦から2日にかけて行われた「肥薩おれんじ鉄道橋梁架替工事」は、全国的にも珍しい建設工事として見学会が設けられました。工事関係者をはじめ、身近な風景が変わるのを見届けようと集まった多くの人が見守るなか、歴史的な工事が進められました。
工事を控えた2019年、年の瀬の川内川。向田側(左岸)より望む。
肥薩おれんじ鉄道、JR貨物が走る川内川橋梁。その歴史は古く、設置は1922年(大正11年)にさかのぼります。2020年で築造から98年目となる橋梁は、昭和そして令和に継ぎ足し工事が行われ、大正、昭和、平成、令和と4つの時代に渡り、使用されていることになります。
青く晴れ渡った令和2年、元旦。冬の澄んだ空気に包まれ、工事は早朝から粛々と進められた。
今回の工事は川内川の川幅を広げるのに伴い、新たに75メートル分の橋梁を継ぎ足すというもの。列車運行への影響を最小限にするため、1年前から工事日程が練られた結果、元旦から2日にかけての作業となりました。新設する橋桁は、愛知の工場で製作した部材を下流側に事前に組み立てておき、油圧ジャッキで横移動させて架け替えます。
設置された見学台には「予想以上の人出」と関係者が驚くほど、多くの人が集まりました。作業の様子を写真や動画に収める人も多く、見学者から作業についての質問が矢継ぎ早に出るなど、建設業に携わる関係者にとって一大イベントといった様子でした。
新たに架け替えされる橋桁。連続する三角形が特徴のトラス橋は、薄い桁でも強度を保つことができる構造なのだそう。75メートル、300トンの新しい橋桁は30分ほどかけてじわじわと移動し、既設の橋梁部分に接続されました。改築後は全長285メートルの鉄橋となります。
家族連れで見学に来ていた育英小学校の女の子。工事の様子をスケッチ。
肥薩おれんじ鉄道のスタッフも応援見学に。
翌2日、川内川河川事務所の工務課長・平岡博志さん(写真左)、川内川といえばこの人!リバーフロントマルシェでもおなじみ、カカカ代表の田尾友輔さん(写真右)をスタジオに迎え「2020年、変わる川内川」と題し、進捗中の工事の様子や整備後の川内川をめぐる景観について、お話を伺いました。2020年度~21年度にかけて行われる大小路地区河川敷の整備計画には、かつて「暴れ川」といわれた川内川の治水に努めた、郷土出身、文芸・出版界の偉人、山本實彦の銅像設置、トイレ・あずまや・ベンチの設置、グラウンドや花壇、駐車スペースの確保などが盛り込まれています。
記念乗車証を手にする二木さん
列車の運行が再開された1月3日。川内駅5時38分の始発列車が「新・川内川橋梁渡り初め列車」となりました。この記念すべき始発便に乗車した二木俊輔さん。「なぜ乗車しようと思ったんですか」と尋ねると、「この日は誕生日なんです」と笑顔。「普段はランニングをしている時間帯なので、記念に乗ってみようかと」。ランナーらしく、行きは川内駅まで、そして帰りは上川内駅から自宅まで走って移動したそうです。当日の始発便には「乗っていたのは15人くらい。外は真っ暗、車窓からは霧がうっすらと見える感じでしたが、今回の工事区間に差し掛かったところで、数人の方がライトを振って迎えてくれるのが見えて。ああ、新しくなったんだな、という実感がわきましたね」とのこと。乗った方しか味わえない貴重な感想、ありがとうございました。
真新しいトラス橋を走る肥薩おれんじ鉄道。2020年1月現在、古い橋脚を撤去し、新しい橋脚を建設するなど、車両の運行と同時進行で工事が進められています。
まちのシンボル川内川。移りゆくまちを見つめてきた川も鉄橋も、時代に合わせて変化していきます。工事の安全を祈りながら、様子を見守りたいと思います。